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高校大パニック

 今日は午前中で大部分の仕事が終わってしまい、雑多な調べものが終わった午後3時ごろ、どれスカパーでも観んべか、とテレビの電源を入れると、ちょうど「麻雀放浪記」が終わったところであった。うわー、ついてないなあとガッカリして番組表を見ると、次の番組名が「高校大パニック」。このあまりにも明快なタイトルに惹かれ、そのままテレビ鑑賞を続行。70年代後半な感じの日本映画が始まった。
 いや、これが面白かった。真面目なんだけど要領が悪く成績が良くない福岡の進学校の高校生が主人公。受験ノイローゼで同級生が自殺するのだが、その生徒を敗残者扱いして通常どおり授業を進めようとする数学教師に反発し、衝動的に教師を殴りつけて学校を飛び出してしまう。そして町をさまよっているところで銃砲店が目に入り、そこからライフルを盗んで逃走、そして学校に舞い戻って、数学教師を射殺。その後校内で人質を取りつつ逃亡を繰り広げるというストーリーである。この逃亡の舞台が学校内で終始しているのがまたよろしい。受験校の高校生の生徒の舞台は、非常に狭い世界に限定されているのだ。
 主人公が教師を射殺する際の叫び声が「数学できんと、何が悪いとや!?殺したるーっ!!」なのだが、この「殺したるーっ!」が宮下あきら原作の漫画『激!極虎一家』に出てくるスーパーヒロイン“枢斬暗屯子”の「犯したるーっ!!」を思い起こさせるものだったが、この映画のほうが先に公開されていたようだ。
 この映画では主人公の高校生が、確たる計画も目的も無く、全て行き当たりばったりで行動する。しかもその全てが稚拙であり、ライフルを盗んだ後それを隠して運ぶ為、神社に立てられた幟を引っ剥がしてそれに包んで持っていくのだが、もう銃身の先や銃床がはみ出てて、「こいつ鉄砲持って歩いとる」と一目瞭然。案の定、ジョギングしている変なオッサンに見付かって通報されるが、主人公は取り敢えず数学教師をぶっ殺してやろうと何の障害にも遭遇せず、教室に辿りつき、教師に向かって発砲。初発は教師の前に立っていた女性との右肩に命中、怯むことなく教壇の方に向かい教師めがけて3発発砲し、教師は即死する。
 主人公は決して自殺した同級生が教師に蔑ろにされたことに対して、正義感を抱いて行動したわけではない。主人公は進学校にいるものの、優等生でもなければ不良でもない、基本的には優しいがおとなしく、そして要領が悪いのである(映画好きの高校生は大概これに当てはまる)。数学が苦手で、日頃から数学教師に叱られており、そのことで劣等感を募らせていたのである。そして似たような境遇の同級生が自殺したことにより己の姿を重ね合わせ、その様に恐怖を抱き、その恐れが教師に対する殺意へと変ったのである。怒りの感情はむしろ恐怖を覆い隠す為、恐怖を忘れる為のダミーのようなものである。
 そこから逃走が始まるのだが、それに対応する警察がまた素晴しい。福岡県警の捜査主任(青木義郎が演じている)が最初から終わりまでクールな姿勢を崩さずに対応に当たるのだが、彼が出す指示がことごとく裏目に出ているのである。主人公が女子トイレに人質を取って立てこもっている時に「突入してそこから一歩も出すな。その間に校内の生徒を避難させろ」という指示を出す。突入した警官が撃たれてしまい、避難の途中で主人公は女子トイレから脱出し、結果的に音楽室が占拠されそこにいた生徒たちが人質にされてしまう。視聴者からすれば「突入するのはみんな避難させ終わってからだろ、このアホが!」と思うわけだが、そこに至っても、捜査主任は至ってクールである。その後全ての行為が裏目に出てしまう。主人公の行動があまりにも無計画で稚拙な為、却って対処しにくくなっているようで、最終的には最悪に極めて近い結果で事件は終わるのだが、最後まで捜査主任はクールにキメて終わるのである。素晴しい。また、制服警官役で出ずっぱりだったのが上田耕一なわけだが、この人はどうしてもVシネの『仁義』にでてくる、関東一円会の会長のイメージが強くて困る。
 教師の描き方も素晴しい。進学校で体面ばかりを気にするという、ある意味お決まりの描写ではあるが、その中にも主人公のことを真摯に考える生活指導の先生(河原崎長一郎が演じている)が出てくる。こういった“進学校の職員でありながら、受験一辺倒の学校の姿勢に疑問を抱く”という教師が1人くらいいるのもまたお決まりではあるのだが。クールな捜査主任の動向を窺った教師たちが直接的には言わないものの「主人公を射殺してしまえばいいのに」というようなことを仄めかすや、生活指導が「彼を殺してしまってもいいというのですか?これはこの学校の受験にばかり力を入れていたことが引き金になったんでしょうが!」と食って掛かる。そして、この生活指導が「現在人質になっている生徒の代わりに人質になる」ことを申し入れる。主人公には自分のことを信頼する気持ちが残ってるはず、俺はお前のことを常日頃気遣ってやっていたではないか、という生活指導の自負は、一発の銃弾によって破壊される。幸い、弾は誰にも当たらなかったのだが、警官が生活指導を逃がそうとする中、生活指導は興奮しながら「勉強が嫌いなら、進学校になんか入るんじゃねえ!お前なんか殺されてしまえ!」と叫び、180度主人公や学校に対する態度を変えてしまうのであった。このあたりの描写が秀逸である。事件が終わった後、茫然自失といった風の校長が教頭に「明日は、普通に授業はできますな」などと言ってしまうのもよい。割とこういった表現はリアルだと思う。おれも震災に遭ったあとは努めて変らぬ日常を送らなくては、と思ったものである。以前ならば校長に共感しなかったかもしれないが、今はこの一般的に言えば「馬鹿なこと」を言っている校長に「あんた、わかるよ」と言ってあげたくなってしまうのだ。
 生活指導が主人公を説得する時に「去年、一緒に酒飲んだよなぁ」と警察の前でとんでもないことを言い出すが、勿論そこは非常事態、こんな瑣末なことをイチイチ問題にするわけはない。そこで主人公と生活指導が酒を飲んでいる回想シーンが挿入される。浴衣を着た主人公が風鈴のぶら下がる生活指導の自宅と思しき場所で酒を飲んでいるシーンだ。回想シーンの描写がいちいち丁寧なのが感心するのだが、そういった回想シーンはところどころに入っており、そこで主人公の人間像を視聴者に見せている訳である。母親が説得するシーンでも「社宅で勉強部屋が狭くて苦しい思いさせてごめんね」「もっといいお弁当作ってやるね」と非常に生活臭溢れる説得をするのだが、そこで狭い部屋で縮こまって勉強する様子や、弁当を蓋で隠しながら食事をとる姿が描かれている。非常時でもそういう説得をしてしまう母親の姿におれなどは共感を覚えて目頭が熱くなってしまう。おれはこういうシーンに弱い。世界の中心で愛をナンたらなんて見ても泣くどころか「あーやだやだ」と思ってしまう嫌な人間であるが(「恋○(自主規制)」などはせせら笑ってしまった)、こういう非常時でも生活臭を溢れさせながら家族を思う姿に、一気に涙腺を刺激されてしまうのだ。まさかこんなシーンで客を泣かそうなどとは、作ってる人間はまったく意図していないだろうけど。
 事件が報道され、学校の周りを野次馬が囲むのだが、そこに出ている方々が面白い。実況しているテレビレポーターを演じていたのがアナウンサーの梶原しげるであった。声に聞き覚えはあるんだが、顔に見覚えが無かったので誰なんだろうと気になっていて、エンディングのキャストロールで「梶原茂」の名前を見つけて、ハタと膝を打った。引きで映っていたこともあり、若い頃は今と大分印象が違うなと思ったが、声は間違いなく梶原しげるのそれであった。『王立宇宙軍』で徳光和男の声を見つけたときのような感覚を覚えたものである。また、主人公を通報したジョギング男がやって来て“走れば命の泉わく”と浪越徳次郎のようなことが書いてあるタスキを掛けながら「勉強ばかりやってるからダメだ、僕みたいに走ればいい」などと素っ頓狂なことをぬかす。そこに「馬鹿かおめえ、勉強していい大学入んなきゃお先真っ暗なんだよ」とイチャモンをつけ、揉み合いになる日雇い労働者風のオッサンを演じていたのが泉谷しげるであった。そして事件現場に軍艦マーチを流しながら十六条旭日旗をたなびかせて街宣車がやってきて、それに乗っている右翼が唐突に日教組批判の演説を始めるのだった。この右翼が小林稔二ならまんま『狂い咲きサンダーロード』じゃねえか、などと思っていたら、この映画も石井聰亙作品だったと。知りませんでした、すみません。この右翼と泉谷しげるが、この後作られることになる『狂い咲きサンダーロード』につながっていくのかと思うと、胸が熱くなるな。
 あと一際存在感があったのが、最後に人質になる女生徒を演じる浅野温子である。まだ十代でふっくらしてたので最初に出てきたときはちょっとわからなかったのだが。浅野は人質に囚われたものの、どこか冷めている風であり、普段から授業中突然歌をくちづさむなどの、今で言うところ中二病っぽい不思議ちゃんな役なのだが、やたら目付きが色っぽく、おいおい20代30代のときより妖しいじゃないかと、ちょっとドキドキしてしまった。喫煙シーンもあるのだが、当時17歳の浅野が役柄とは言え堂々と煙草を吸っており、今だったらおせっかいなν速民が「未成年に実際に喫煙させるなんて犯罪だ」などとすげえ抗議するんだろうな~、などと思ったものである。当時はその辺がゆるかったのが映画制作の環境としてはよかったのであろう。あと、当時17歳の浅野が胸を露出させるシーンもあるのだが、現在だと児童ポルノ禁止法はクリアできてるのか?大丈夫なのか?と思ってしまうが、なんとも世知辛い世の中である。乳くらいどうでもいいじゃねえかと。尤もそのシーンはまったくエロくないシーンである。水分を補給して濡れたハンカチで胸元を拭いているシーン(これは脱衣していない)はエロかったが。そこで主人公が意識しつつも暴行などをしないところが、この映画のミソでもある。
 そう、ここで学校をパニックに陥れているのは、先述のように不良ではなく、普段はおとなしく、性を意識しても実行に移さないだけの理性があり(度胸がないともいえる)、この犯行も綿密な計画を立てたわけでも、以前からこうしてやろうと考えていたわけでもないというテロリスト願望がまったくない、全部が全部、行き当たりばったりで、事態は主人公が望まないのにエスカレートして、引っ込みがつかなくなっていくだけなのである。犯人である主人公がパニック状態であり、それに伴って学校内、つまり主人公の周りの状況もパニックを起こしてしまうと。またそれを助長しているのが、クールな捜査主任の現場指揮であるというおかしな構造。複数層のパニックが噛み合わさって1つの大きなカオスな状況を作り出しているのである。恐らく、石井はその1人の平凡で無力な未成年の精神的なパニックが行動のパニックを起こさせ、それによって周囲にパニックを呼ぶ状況を描きたかったのであって、受験戦争は単なるそれを表現する為の手段に過ぎず、当時の受験戦争を酷さを訴えたいわけでは必ずしもなかったのではないかと思う。勿論、まったくその気が無いというわけでもないだろうけど。そういう意味ではジョージ・ロメロ的な映画なのかもしれない。発砲でドアノブを破壊するシーンなどや、ロメロ映画のショッピングモールを学校に置き換えると何となくそれっぽい。
 初見だったし、観覧途中で税理士から電話が来て対応していて観られなかったシーンもあったので、本来はもっとよく観て調べてから書けばいいんだろうけど、この衝撃の消えないうちに覚書をしておこうと思った次第である。よって、不正確な描写も多いと思うが、まぁ、チラシの裏にツラツラと書いたようなものなので、気にしないことである。
チャンネルNECO「日活70'sシアター『高校大パニック』予告」

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※CSのチャンネルNECOで今月(11年8月)何度か再放送されます。CS未加入の方はDVDも出ています。

 この映画は福岡が舞台であり、福岡空港に離発着の為低空を飛ぶ旅客機のシーンが何度か挿入されている。何か時代性を反映させたのか、何かのメタファーなのか、1回の視聴でわからなかったが、アレにはどういう意味があるのだろう?以後観る機会があったらその辺を注意してみたい。尚、時事ネタ的に言えば、福岡空港周辺一帯の土地はこないだナントカ担当大臣を辞めた方の一族の持ち物である。あの辺の地価とか福岡空港の借地代とかを調べると大変なことになるかも知れないので、やめておいたほうが宜しい。

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※石井映画といえばこの2本。日本のロック、そしてパンク文化を象徴した作品。日本のパンクがUKやUSのモノマネではなかった、独自のカルチャーだったということを“感じ取れる”快作。
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興味深い解説ですね

ここまでこの映画について書かれてあるのは凄いです。
朧げな私の記憶も甦りました。おしっこシーンも印象出来でした。
しかし、途中で電話を掛けてきた税理士は罪深いですね。
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でー

Author:でー
メタルとか他いろいろなことを
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