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ブラック・クリスマス道中記

 12月25日、即ちクリスマス。日本人ならその2日前の天長節こそを第一に考えるべきなどと昨年書いたが、それは置いておく。この日はおれの所属するバンドが、DIE YOU BASTARD!の企画「年末POWER HALL BLACK X'MAS “福島なめんなよ!”」に出演すべく、会場のライヴハウス「EARTHDOM」のある新大久保に出掛けて行った。

 しかし、好事魔多し。ライヴ直前にヴォーカルの睦男くんが扁桃腺炎に罹ってしまった。連日40度近い高熱にうなされ、腫れあがった扁桃腺が喉を塞いでしまい、とても歌うどころではなくなって、無念のリタイア。睦男くんも初の東京のライヴということで前々から楽しみにしていたので、非常に残念であったろう。睦男くんはチャン・グンソクに似ているので、韓流の街である新大久保を歩かせるとちょっとした騒動になるのではないか、などと密かに楽しみにしていたのもあり、重ねて残念であった。

 そこで、いわきのハードコアの重鎮であるところのKAKOTOPIA HENCOOPのヴォーカリストであるシュンさんに代役を頼んだところ、「よし、わかった!でも、次の日用事があるから打上げには出ないで帰ることになるけど、それでもいいなら」と快諾していただき、まずは一安心。前日の急なお願いであったのでシュンさんを加えての事前練習もせずに出演することになったが、まぁ、どうとでもなるだろうという妙に楽観的な気分で出発することになった。

 当日の朝、リーダーでベーシストのラーチカさん(睦男くんの実兄)の車がおれの自宅兼職場に迎えにやってきた。朝の仕事を済ませ、おれも出発すべく表に出たら、シュンさんの強烈なまでに真っ赤なモヒカンが目に入る。剃られた側頭部には「KAKOTOPIA HENCOOP」のロゴの刺青、タレサンにレザージャケット、豹柄パンツにロングブーツという完全武装で車外に出ていた。平和な田舎町にこのようないでたちの180センチを超える大男が現れたのである。「ヒャーハー!ぶち殺されてえか~」「汚物は消毒だー!」という「北斗の拳」の敵キャラの台詞がまず頭に思い浮かんだ。平ハウスではいつも見慣れている筈なのだが、やはり屋外、しかも自分の家の庭にいるとなると、改めてハードコアパンクなるものは非日常な存在であるということを思い知らされた。

 出発してすぐ、このバンドの良心であるドラマーの松っちゃんが「朝ごはんを食べたい」と希望し、我が家から一番近いコンビニである国道沿いのローソンに入店。店の外ではニッカーボッカーを履いているちょっとワルっぽい2名の男性が駄弁っていたが、シュンさんが買い物のために入口脇を通ったとたん、普通の一般人にしか見えなくなったから不思議である。

 改めて、出発。最初はラーチカさんが運転し、おれが助手席。後部座席では松っちゃんがおにぎりをほおばり、シュンさんがウィスキーのミニボトルを喇叭飲み。ラーチカさんの車にはガソリンがあまり入っていなかったので、常磐道の最初のサービスエリアである中郷SAで満タンに給油。そして一路東京に向かう。後に松っちゃんが「そういえば、あんちゃん(ラーチカさんの事)が運転してる間、一回も車線変更しなかったねえ」と振り返ったラーチカさんの運転で那珂インターの手前まで行ったところで、シュンさんが「トイレに行きたい」と言い出した。出発直後から既に全開で飲酒していたため当然の帰結であったが、これを言い出したのがかなり切羽詰った状態だったようで、「…やばいな、うん、やばい」とうわごとのように繰り返すシュンさん。何とかトイレのあるPAに辿り着き、シュンさんが車から飛び出すと一目散にトイレに行……かずに、植え込みにダッシュしての小用であった。その後姿を見るにつけ、「仁王立ち」という形容がここまで似合う人も珍しいなと、妙に感心してしまった。おれも小用を済ませ(ちゃんとトイレに行った)、予定では守谷で交代だったが、ここからおれの運転で大久保まで行くことにした。BGMはG.I.S.Mの1stアルバム「DETESTATION」。4曲目の超絶名曲「Nightmare」がかかると、車中では「デス!デス!デス!デストロイ!!」の大合唱。もう気分はライヴハウス。

 そして常磐道の終点、三郷料金所。高速代は2,000円也。水戸以北の走行分は無料であった。震災ゆえの措置であるので心からは喜べないものの、懐的には非常に助かる。そのまま首都高へ。あまり東京に行かない地方民にとっての鬼門がこの首都高の運転である。カーナビを積んでいないから尚更であったが、とにかく通過するジャンクションを少なくした上に、首都高を下りたあともなるべく単純なコースで行けるよう、事前にリサーチした上で西池袋出口を目標に設定、そのまま山手通りを南下して、大久保通りに入るという道順を選ぶ。リハーサルは14時半からだが、新大久保に着いたのが12時ごろ。昼食を取って会場入りするには丁度いい時間である。

 EARTHDOMのある新大久保駅近辺は生憎どの駐車場も満車だったため、隣の大久保駅の近くの駐車場に車を停めた。昼食の前に会場の場所を確認しておこうと、EARTHDOMを目指す。大久保駅付近はそれほど人がいなかったのだが、新大久保駅近辺になると俄かに人が増てきた。昼食時であり、韓国料理店が目当ての人なのだろうか、狭い歩道に人がごった返していた。路面にある店舗には韓国芸能人のグッズが並んでいるが、チャン・グンソクのグッズを見るたびに、病気に苦しんでいる睦男くんが思い出される。すると、タイミング良くシュンさんの電話に睦男くんから電話が。シュンさんに代役を引き受けてくれた礼の電話であった。電話を変わってもらうと、前々日に較べて幾分か良い声が聞けて何よりであった。「通りは睦男くんの写真でいっぱいだったよ」とチャン・グンソクグッズの並んでいる様を説明すると、電話越しに苦笑いが聞こえてきた。グンソク似という評価をあまり光栄には思っていないようである。確かに睦男くんのほうがずっと男前だ。

 その頃既にEARTHDOM近辺と思しき場所にいたのだが、建物の外に看板が出ていないため、どこから入ればいいのかがわからない。そこでラーチカさんがDIE YOU BASTARD!のヴォーカリストである木村和尚に電話をかけて場所を訊く事にした。ラーチカさんという人選は、彼しか和尚さんの電話番号を知らなかった為である。ところが、どうにもラーチカさんの言う事が巧く伝わらなかったようで、なかなか場所が聞き出せない。確かにラーチカさんの訛はきついが、和尚さんも福島出身であるので、訛が聞き取れないせいではなく、単純にラーチカさんが異常に口下手で、現在地の説明が壊滅的だったのである。埒が開かないので、そこいらのビルの中に入ったところ、あっさりとEARTHDOMの看板を発見。当然まだ店は開いておらず、リハーサルまでに昼食を取ることにした。

 昼食をどこにするか、という話になったが、折角の新大久保だというのに、誰一人として韓国料理店を候補に挙げない。それどころか危うく餃子の王将なんぞに入りそうになってしまう始末。結局は車を停めている駐車場の近く、大久保駅前のインド料理店に落ち着いた。この店には数年前、おれが一度行ったことがあるので、「まるっきり初回の店よりは安心」とのことであった。昼食時だというのに誰も客がおらず、貸切状態(後で2組ほど入ってきたが)。真昼間からビールを飲み、おつまみにタンドリーチキンやシークカバブ、茄子のパコラなどを突付く。なかなか旨く、皆にも好評であり、酒と食が進む。そしておれの好物であるところのサグパニール(チーズ入りのほうれん草カレー)とナンを頼み、腹を満たす。4人で1ダースほどのビールを消費し(もっとも、そのうちの半分がシュンさんによるものだが)、タンドール料理やカレーを堪能し、さて店を出て会場へ向かおうかとなったところでラーチカさんが一言。「…もっと食いてえ」

 結局、サグチキン(鶏肉入りほうれん草カレー)とナンを追加した。そこに和尚さんからラーチカさんに電話で、そろそろリハの時間だとの知らせが入り、ラーチカさんがカレーを食べ終わったところで店を出た。駐車場に戻って楽器を出し、改めて会場に向かう。場所の確認に行ったときはそんなに遠く感じなかったのに、満腹感と酔い、あと楽器等の荷物が増えたせいか、先刻よりやたら遠く感じる。会場に着くと既に会津のバンド己是(おぜ)がリハーサルをしていた。我々のリハはその次の次ということだったのだが、次に予定していたSTRANGE FACTORYは先に到着していたものの、駐車場探しが難航していた為、我々が先にリハをすることになった。

 昼食時の酒が抜けず、酔っ払った状態でのリハは酷いものだった。まず、アンプから音が出ない。インプットジャックにシールドを繋いだつもりが、フットスイッチ用の端子に突っ込んでしまったせいであった。そして、ギターの調律がいい加減。直前にいわきで練習した後に弦を変えようとして弦を弛めておいたのだが、明るいところで見ると(平ハウスのスタジオは基本的に暗い)、大して弦も劣化しているようではなかったので、そのままにしておいたのである。普段は弦を交換した時だけチューナーを使って調律し、あとはギターを弾く時に耳で微調整するという習慣だったので、リハ直前で弦がダルダルに緩んでいるという事態は想定しておらず、弦を弛めっぱなしだったのをすっかり忘れていた為、急場しのぎで耳で調律した結果、微妙な不協和音の調律となってしまった。しかも長時間弦を弛めていた為か、なんとか合ってるかな、という感じに調律にしても、すぐに弦が弛んで音が半音近く下がってしまう始末。途中で調律することを諦め、半音近く音が低いまま1フレットずらして弾くことで何とかそれっぽい演奏をした。上手モニターのドラムの音がもっと大きい方がいいと思い、卓に「すみませーん、こっちにもっとドラムをください」とお願いすると、下手モニター前のラーチカさんが「じ、じゃあ、お、俺んとこにも、ドラムください」、中央モニター前のシュンさんが「だったら、おいらんとこもドラム貰っちゃおうかな」などと、他人が貰ったのを見て、自分も同じモノが欲しくなるという幼児性を発揮。「あんたら、小学生か」と突っ込みをいれ、残り1曲を演奏してリハ終了。フロアに下りて自分の鞄からチューナーを取り出して、改めて調律。ややシャープ気味にして弦を張って、本番直前にレギュラーチューニングに調整するようにした。

 店内のバーに行くと、そこではラーチカさんのモヒカン立て作業が行なわれていた。シュンさんが「モヒカンならおいらにまかせろ」とばかりにはりきってラーチカさんの髪にダイエースプレーを吹きかけ、ドライヤーでセットする。しかし、だんだん困った顔になって「…そういえばおいら、これまで一度も自分で髪を立てたことなかった」と白状。途方に暮れたところで、和尚さんが登場し、ラーチカさんの髪を立て始めた。「ダイエースプレーって今でも売ってんだねえ。俺も高校の頃、纏め買いするのによく郡山まで行ってたよ。福島(市)には全然売ってなくてね」「いやー、髪立てるのなんて久しぶりだわ。昔は俺も散々立ててたけど、そのせいで弄くるほどの髪もなくなっちまって…」とニコニコしながらダイエースプレーとドライヤーを繰り返し持ち替える。和尚さんに髪を立ててもらえるなど、ラーチカさんは果報者である。彼はどうも他人に可愛がられる雰囲気を持っているようだ。人望はないくせに人徳はやたらにあるのである。しかし、和尚さんもだんだん困った顔になってきて「あんちゃんの髪は、立てるにはどうも髪質がサラサラし過ぎてるな」とぼやく。するとラーチカさんが衝撃の一言。「す、すんません。つ、つい、髪洗った時に、リ、リンスしちゃったんで…」髪立てに先立ち、リンス、コンディショナー、トリートメントの類を使うのは言語道断。やってしまったら、石鹸で洗ってリセットするのが筋というものであろう。結局、悪戦苦闘しながらも小一時間かけて、和尚さんと松っちゃんとおれで、何とかそれらしい8本スパイキーのモヒカンを作り上げたのだった。シュンさんはカウンターで酒を飲んでいた。可愛らしいバーテンドレスが2人もいてご満悦。バーには出演者や観客が集まって来てだんだん賑やかになってきた。

 正直、昼食時の酒が残っていてどうにも気分が良くない。ライヴが始まるまでのけだるさは尋常ではなく、眠くて仕方がなかった。しかし、イベントが始まって1組目のTERROR SQUADのステージがあまりにも強烈であった。凄まじいスラッシュナンバーの畳み掛けに眠気も吹き飛び、アドレナリンが急上昇。さっきまでのやる気のなさはどこへやら、こりゃあ、一発やってやらにゃしゃあない、という気分になる。TERROR SQUADのおかげに気分が上がってきたが、もし自分達が一組目の出演だったら…と今思うと恐ろしい。TERROR SQUADに感謝。ヴォーカルの宇田川さんと話したところ、浜通り近辺に親戚がたくさんいるとのことで、是非いわきでライヴがしたいとのことであった。そこに、GUILLOTINE TERRORのドラマー、ラッシャーさんがフロアにひょっこり現れ、ハグして再会を祝す。しかし、ラッシャーさんのジムで徹底的にワークアウトされた身体に腕を廻すのは大変であった。バーに戻ると、栃木のハードコアバンド、DISGUTIESのマッチョさんと315さんが2人揃って観に来ており、ラーチカさん等と違ってなかなかこの界隈に知り合いの少ないおれにとって、こうした見知った顔がいてくれるというのは、なんとも心強いものだった。マッチョさんはおれに挨拶した後にシュンさんを見て「この方がよしやさんですか?」とK.Hのリーダーの方と人違いをしてしまうのであった。
TERROR SQUAD「Chaosdragon Rising」PV

 
 俄然やる気が出てきたおれは、我々の出番(4番目)に備えて、バックステージに入って入念に準備をする。ノイズサプレッサーの電池を新品に換え、予めきつめにチューニングしていたギターをレギュラーチューニングにし、何度か弾いては微調整。そして、3組目のメタボリック・ハードコア・バンド「チェリオ」が「Summertime Blues」の素晴しいカヴァー(歌詞はR.Cサクセション・ヴァージョンであった)を演奏して終了。遂に我々の出番が来たのである。

 しかし、ここで問題発生。バックステージにシュンさんがいないのである。「シュンさんいないけどどうしたの?」「多分、フロアにいるんだと思う。俺ら出てくれば、そのままステージに上がって来っぺ」「じゃあ、このまま出っか」ということで、SEを流してもらい、ステージに登壇。人で溢れかえったフロアを見渡すと、シュンさんが…いない。長身の巨躯に真っ赤なモヒカンの、アレだけ目立つルックスの人間が、まったく見当たらないのである。ヤバくね?もしかして…という心境になると、ふと視界にバーから出てきたと思しきラッシャーさんの姿が。ラッシャーさんがステージに目を遣って我々の姿を確認すると、驚いたような顔をして、バーの方へ踵を返した。シュンさんを呼びに行ったに違いない。シュンさんは自分の出番に気付かず、そのままバーで飲んでいたのである。バーの方から駆けてきたシュンさんの姿を確認すると、まだステージに上がる前に、松っちゃんに目配せして演奏を開始。ステージに上ったシュンさんがマイクスタンドを持ち、歌い始める。そして、モニタースピーカーに足を乗せようとしたところでバランスを崩し、豪快に転倒。これで我々の勝利は約束された。後は何をやっても大受け状態。演奏も、先刻のリハの酷さはどこへやら、定期練習をキッチリやっていたおれと松っちゃんは絶好調であった。妻子の体調不良のため、しばらく練習に参加できなかったラーチカさんはそれなりに危なっかしかったながらも、ミスしても演奏を途切れさせず、勢いで弾ききった。ハードコアはこうした勢いが大事である。間違ってもいいから、止まらないことが重要なのである。途中のラーチカさんのMCも「今日はダイユーエイトの企画で…」などと福島ローカルネタを入れる余裕。寒いステージでこんなことを言ったら袋叩きにされてもおかしくない物言いだが、今日はそれが許されるような雰囲気を作り出すことができたステージであった。シュンさんは大量の飲酒と全力でのステージアクションで残り2曲となったところで息も絶え絶えの状態。客席から「もう、バテたのかー!?」と野次が飛ぶと、シュンさんが「もうこの辺にしておいてやる」と、吉本新喜劇の池乃めだか師匠のような切り替えしをして、ステージを下りようとする。おれが「まだ2曲残ってますよ」と言うと「しゃあねえ、やってやるか」とステージ中央に戻って、残り2曲を完全燃焼した。
20111225.jpg
↑後日、ラッシャーさんからライヴの時の写真が送られてきました。

 出番が終わると、一気に疲れが出てきた。安心したところで、仕事明けにすぐ出発し運転やら飲酒やらで体力を削られていたのが一気に顕在化したようである。少しバーのソファで休むことにした。シュンさんは先ほどのステージに反響によほど気を良くしたようで、あちこちでコミュニケーションをとっていた。特に、昔よく共演していたが、最近あまり会う機会がなくなったという福島市のSTRANGE FACTORYの方々とは、久々に会えた事がとても嬉しかったらしく、特に話し込んでいた。STRANGE FACTORYの演奏の際も、最前列で見て、マイクの位置がずれていると見るや、ステージに上ってマイクの位置を調整していたりしていた。

 そんなこんなでトリはDIE YOU BASTARD!。ギターが4月にいわきに来た時にいたノケンさんではなく、グラインドコアバンド324の信二さんがヘルプで弾いてたのだが、黙々と演奏していたノケンさんとまるで別のタイプで、ガンガン前に出て客を煽りまくっていた。ステージに上がる前にはVENOM(アメコミではなく、メタルバンドの方)のTシャツを着ていたのに、ステージ上では何故かアニメの美少女キャラのTシャツになっていた。このあたりもなかなか只者ではない。バンドの演奏はさすがの一言。ステージ前でモッシュが起こる。特に筋肉の塊であるラッシャーさんの巨体によるモッシュは凄まじいものであった。これまでいわきに来た時に見た限りでは、酒を大量に飲んでも物静かな印象があったラッシャーさんだったが、この日は弾けまくっていて、意外な側面を見た思いだった。和尚さんのMCも絶好調。何故か「福島は埼玉より凄い」と連呼。埼玉で一体何があったのだろうか?ともあれ、和尚さんの故郷である福島への望郷の思いが実現させたこのイベントである。アンコールを求める観客のコールも「福島!福島!」と福島コールであった。その声に導かれるように現れた辰島さんが一言。「今日から“アイアンフィスト福島”に改名するわ」 このイベントに出て、福島のバンドの熱さを伝える一助となることができて、生まれも育ちも現住所も茨城県民のおれも嬉しく思った。
DIE YOU BASTARD!「牙鳴」

 
 それにしても信二さんの存在感が凄いというか、どうにも気になる。松っちゃんも信二さんに釘付けだったようで「あの人は凄い。恰好いい」としきりに言っていた。実際の上背はあまり大きい方ではないのであるが、ステージ上ではやたらと長身に見えることからも、そのスケールがわかるというもの。この大豪院邪鬼の如きオーラを纏う信二さんの渾身のパフォーマンスの奥底にあるものは何なのだろうか。すると、辰島さんが改名宣言に続くMCで「信二は今日で最後のDIE YOU BASTARD!のステージだ。本当は仕事とかいろんな状況で本来こんなところに来られるような状態じゃないのに、本当に大変な状態の中今までヘルプでギターをやってくれた信二、本当にありがとう」と言ったのである。なるほど、今日がDIE YOU BASTARD!に於ける信二さんのラストギグだったのか。それで特別張り切ってるんだな、と思い、「信二さんはラストだからあんななんですね」と観客の一人に言ったら「いや、信二はいつもあんなだよ」とにべもなく言われてしまった。どうやら素であんな風らしい。辰島さんに続いて和尚さんも信二さんについて言及。「信二がDIE YOUを手伝う条件が“MCをやらせてくれ!”だったんだよ。普通じゃねえだろ、そんなの!」やはり、素であんななんだと確信。和尚が「その割にはあんまりMCしねえんだよなこいつ」と言うと、信二さんが突然「俺はヒーローになりたいんですよ!チャージーング、ゴー!!」とやらかした。和尚さんは「訳わかんねえなぁ」と呆れ、会場でもなんだか微妙な空気になったが、少なくともおれ、そして松っちゃんの2人は「チャージング、ゴー」という言葉に即座に反応したのであった。

 そのままアンコールは、“アイアンフィスト福島のデビュー曲”という触れ込みでMOTORHEADの名曲「Iron Fist」のカヴァーをブラストバージョンで演奏。おれもステージに上って「You Know Me!」のコーラスを取った。そして盛況の中、イベントは終了。しばらく、出演者やお客さんにお礼の挨拶にフロアやバーを彷徨う。おれと松っちゃんがフロアで信二さんが後片付けを終えているのを発見し、お疲れ様の挨拶をする、そこで「チャージング・ゴーはまずいでしょう」と言ってみた。信二さんはにやりと笑うと「チャー研のトリビュート盤あるでしょ?アレは元々俺がきっかけで作られたようなもんなんだよ」と言ったのだ。おれもさすがにその答えにはビックリした。「マジっすか?」「ホント、ホント。アレを企画した奴ってのが、当時俺ん家に同居っつーか居候っつーかしてた奴でさ。俺は昔からチャー研好きで、『これ面白いから見てみろよ』つったら、そいつすっげえハマっちゃってさ。そしたらトリビュート盤作るつって、オーケン(大槻ケンヂ)とかに話持ってっちゃって、ホントに作られちゃったんだよ」
とりあえずお約束どおり「よくも、そんなキチガイレコードを!」と言っておいた。それにしても、この話が聞けただけでも、このイベントに参加した意義があろうというものだ。信二さんが「この話、広めちゃってよ」と言うものであるからして、特にこのブログに記しておく。

さて、冒頭に記したとおり、シュンさんも次の日に用事があることだし、打上げには参加せずに一足先に失礼するか、となったのだが、松っちゃんがシュンさんに「帰るから準備してくださいよ」と言うと、シュンさんは悲しそうな顔をして「…帰りたくない」などと言い出した。かなり酔っているようだし、誰か面倒を見なきゃならんと思いおれも残ろうかなと考えて他の2人の顔を見たら、ラーチカさんと松っちゃんの「首都高運転したくない、頼む!一緒に帰ってくれ!つーか、首都高を運転してくれ!」という無言の訴えがおれに伝わってきた。それにおれは次の日、いわきで東京事変のコンサートを観る事になっており、打上げになんぞ出て、シュンさんもろとも泥酔し、コンサートの時間までに帰れなかったら大変である。おれはシュンさんの面倒を観る事を放棄し、結局シュンさんを置き去りにして3人で帰ることにした。

 EARTHDOMを出たところでラーチカさんが「腹減った。飯が食いたい」と言い出したので、楽器を車に積んだ後、やよい軒で遅い夕食を摂った。ラーチカさんはよほど腹が減っていたようで、ご飯を3杯もお替りしていた。松っちゃんも「散々昼食ったので腹なんか減ってないよ」と言いつつ、ご飯をお替りしていた。いつの間にか日付は26日になった。松っちゃんの誕生日になったのである。誕生日になる瞬間、松っちゃんはやよい軒のトイレで奮闘していた。

 車を走らせ、大久保通りから山手通りに出ると、ラーチカさんが「やっと東京にいるって実感が湧いてきた」「大久保は全然東京って気がしない」など言いたい放題。さすが大都会いわき在住のシティーボーイである。車中のBGMは最近おれのお気に入りであるSCHOOLFOOD PUNISHMENTやジュディマリの東京ドーム公演のライヴアルバムなどをかけ、まったくハードコア色がなくなっていた。無事、首都高を抜け守谷SAにておれはお役ご免となり、松っちゃんと運転を変わる。松っちゃんも「首都高さえ抜ければこっちのもんよ!」と嬉々としてハンドルを握る。ラーチカさんは既にウトウトしていた。飯を腹いっぱい食べたので眠くなったのだろう。

 そのまま常磐道を走っていると、水戸あたりで松っちゃんが「そろそろガソリンが無くなってきた。中郷SAまでは持ちそうだからそこで給油する」と言った。おれもいい感じに眠くなってきて、うんわかった、と生返事をした。そして中郷SAに到着。トイレ休憩をしたところで、SA内のガソリンスタンドに向かった。真っ暗だった。さっきまでまどろんでいたおれの眠気が一気に吹っ飛んでしまった。ロープでバリケードが張られており、唖然としながら営業時間のパネルに目をやると「7時~22時」と書かれていた。現在は真夜中の2時30分。言い知れぬ絶望感が真夜中の暗闇と共に我々を包み込む。松っちゃんが「ふざけんなよ!高速のスタンドなんか普通24時間やるべきだろ!?高速の上でガス欠起こしたらどうするつもりなんだよ!!」と尤もな怒りを発する。とはいえ、現実としてスタンドは閉まっており、我々にはどうすることもできない。取り敢えず、ここから一番近いおれの家に帰ることをまず目指すことにした。高速を下り、おれの家に着く間に開いているガソリンスタンドはないか探す。ない。一軒もない。おれの家にだんだん近づいてくる。どこも開いていない。というかおれの家までガソリンが持つのか?祈るような気持ちでいると、無事我が家に到着。助かった。車を降りると突然車のエンジンが停止。運転席の松っちゃんがセルを廻すが、エンジンはかかってもすぐに停止してしまう。ウチの庭先でラーチカさんの車はガス欠を起こしてしまったのである。そこでおれは、自分の車のガソリンをわけようと、ウチの倉庫から石油ポンプを取り出し、ラーチカさんの車とおれの車の給油口の位置を合わせ、給油口にポンプを突っ込む。しかし、おれの車の給油口はガソリン泥棒防止のためか、給油口とガソリンタンクの間が曲がりくねっている構造のため、ポンプがタンクの中にまで入っていかない。そこで、おれの車で深夜営業のガソリンスタンドへ行き、そこで携行缶と一緒にガソリンを購入し、家に戻ってラーチカさんの車に給油することにした。そして、いわきをどんどん北上していくが、なかなか深夜営業のスタンドがなく、ようやく泉の旧国道沿いに営業しているスタンドを発見、さっそく店の人に携行缶を売ってほしいというと「ウチにはない」と断られる。ラーチカさんのモヒカンにボロボロの作業服というハードコアスタイルのせいで売ってくれないのかとも訝しがったが、本当に売っていない模様。その後何軒かまわってみたが、どこも同じ答えだった。どうもセルフのスタンドでは携行缶も売らないし、携行缶に給油すること自体を禁止しているところが殆どのようである。「セルフスタンドの場合、お客さんが給油するので、携行缶だと上手く給油できずに溢れさせたりして危ないんで、どこも携行缶は扱ってないです。セルフじゃないスタンドに行ってください」「じゃあ、この辺でセルフじゃないスタンドで今の時間営業しているところを教えて欲しい」「そんなところ知りませんし、恐らくないでしょう」万事休すである。
 さてどうするか思案していると、松っちゃんが「俺んちまで行けば携行缶あるよ。まず、ラーチカさんの家まで行って、俺の車に乗り換えよう」ということになった。しかし松っちゃん「あ、俺の車の鍵、あんちゃんの車の中に置いて来ちゃった」…結局俺の家までとんぼがえりである。我が家まで戻り、ラーチカさんの車の中から松っちゃんの車の鍵を救出、そしてラーチカさんの家に向かう。車中松っちゃんがラーチカさんに「もう何回もガス欠してんべ!?前に俺んちの近くでガス欠起こして助けてやったとき『携行缶買っとく』って言ったべ!?なーんでまだ買ってねえのよ?」と説教していた。ラーチカさんの家に着いてラーチカさんと松っちゃんを降ろしたところで、ここで本当におれはお役ご免となった。松っちゃんの家はおれの家から1時間ほどかかる結構遠い場所にあるため、ここでもういいだろうということになったのである。このとき既に4時を回っていた。

 家に到着し部屋に入ると、靴下とコートを脱ぎ捨て、ベッドに潜り込む。なんとも波乱に満ちた1日であった。そしておれが眠りに落ちる頃、あの2人はセルフのスタンドでこっそり携行缶への給油を試みたところで店員にバレて追い出されるなどし、ラーチカさんの車に給油できたのは朝7時近くになった頃だという。そこから1時間かけて松っちゃんは家に帰り、寝ようとした頃には既に朝の8時を回っていたとの事である。



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※仕掛け人(?)にお会いできて光栄でした。テーマ曲のギターのカッティングが何気にかっこいい。


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※後日、義狼魑武掟羅亜のラッシャーさんから「俺も昔、信二にチャー研勧められました」とのメールをいただきました。
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