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ANTHRAXェ……

 震災から1ヶ月経った4月の半ば頃だろうか。震災後の復旧作業や支援作業などが一段落し、例年なら仕事に忙殺されているはずのゴールデンウィークも、原発事故の影響でまったく仕事が入らずの状態。4月の末にGUILLOTINE TERRORやDIE YOU BASTARD!といったメタル色の強いハードコアバンドと対バンの予定も入っており、そろそろ自分がお客さんでメタルのライヴを楽しみたいと思っていた。
 震災の翌々日は、本来ならIRON MAIDENのライヴを観ているはずだったが、当然の如く中止となっていた。また、公演を強行したとしても、当時、停電断水燃料なし交通機関完全死亡の陸の孤島にいたおれがライヴ会場まで行けるはずのなかったわけである。震災直後の、とりあえず何とか生き延びてやろう、というサバイバル生活のときは、娯楽なんぞ知ったことか、といった心境だったのが、いざ文明的な生活に戻ってしまうと、娯楽への渇望が呼び覚まされてしまい、「ライヴに行きたいな」などという贅沢を求めるようになってしまったのであった。4月11日12日の超強力な震度6の地震を2連発で喰らってさえも、停電や断水、家屋の崩壊などが起きなかったとなると、贅沢な娯楽を求める心にまったくブレーキはかからなかったのであった。
 PCを開いては、ゴールデンウィーク前までの「労働時間ばかり長くて殆ど利益にはならないが、職場を回す為(特に資金的な意味で)の仕事」に関する資料をせこせこ作っている合間に、「なーんかメタルのライヴやんねえかな。やんねえよな」などという気持ちでネットを見ていると「ANTHRAX / HELLYEAH 来日公演」のサイトが。スラッシュ四天王の1つANTHRAXが、元PANTERAのヴィニー・ポール率いるHELLYEAHを前座に来日公演を行なうとのことだ。HELLYEAHは前年に観たばかりだが内容は素晴しかったし、なんと言ってもメインのANTHRAXのライヴをこれまで観た事はなかったので、これはいい機会だと思い、スケジュールが合えば観てみようかと思った。懸念された常磐線の復旧状況も順調で、4月末までには東京への行き帰りは問題なさそうであった。しかし、この頃はまだまだ規模の大きい余震が頻繁に起きていた時期だったので、チケットを買うのは控えていた。ナニ、チケットは売り切れないだろう、当日券で入ればよい、と高を括っていたのである。そうしたら3日と経たなかった後にこのようなお知らせがイベントのサイトに載ったのである。

ANTHRAX / HELLYEAH 来日公演延期のお知らせ
5/5(木)より予定しておりましたANTHRAX JAPAN TOUR 2011(Very Special Guest: HELLYEAH)は東日本大震災の影響により、公演を延期させていただくこととなりました。
延期日程は年内にて調整しておりますので、お手持ちのチケットは紛失等されませんように大切に保管していただきますようお願い致します。チケットの払い戻しに関しましては延期日程が決定次第、改めてご案内致します。皆様に多大なるご迷惑をお掛けしますことを深くお詫び申し上げます。
2011年4月18日 クリエイティブマン プロダクション


 その頃は既に外タレの来日公演も日程どおりに行なわれるようになり、4月上旬のCATHEDRAL解散ツアーの来日公演などは、ギタリストのギャズ・ジェニングスの9歳の娘までが、ギャズやギャズの妻の反対を押し切って日本について来るなどということまであった。このギャズの娘の行動に賛否はあろうが、こうしてメタル界隈も日常を取り戻しつつあった中で、ANTHRAXの来日延期は「まだ日本は異常事態にあるのだ」という現実を改めて認識させてくれた出来事であった。ガッカリしたファンは多かったし、中には「ANTHRAXはヘタレ」と毒づく者さえいた。おれもガッカリはしたものの、原発事故の影響の大きさを考えればこれもやむなしと思った。それに来日延期であるし、チケットを買ったわけでもないので懐が痛んだわけでもない。振替公演を観覧できればいいなと思った。そして1ヵ月後に延期日程のお知らせがサイトに掲載されたのである。

ANTHRAX / HELLYEAH 振替公演決定のお知らせ
東日本大震災の影響により、公演を延期させていただいておりましたANTHRAX JAPAN TOUR 2011(Very Special Guests:HELLYEAH)の振替公演の日程が下記の通り決定致しましたのでご案内致します。
お手持ちのチケットは振替公演日に限りそのまま有効となりますので、大切に保管して下さい。またチケットの払い戻しをご希望のお客様には、お買い求めいただいたプレイガイドにて5/23(月)~6/30(木)の期間のみ払い戻しさせていただきます。払い戻しに関する詳細はお買い求めの各プレイガイドまでお問い合わせください。
2011年5月18日 クリエイティブマン プロダクション
 5/5(木・祝)東京 渋谷O-EAST → 12/13(火)東京 渋谷O-EAST
 OPEN 18:00 / START 19:00
 5/6(金)東京 渋谷O-EAST → 12/14(水)東京 渋谷O-EAST
 OPEN 18:00 / START 19:00

 12月とはまたかなり長く間を置いたな、と思ったが、ANTHRAXも9月に新譜発表を控えていて、それにあわせたアメリカでの国内ツアーもあるだろうし、HELLYEAHも同時に都合をあわせなければならないので、仕方なかろうと思った。しかし、その頃YoutubeにANTHRAXから投稿された動画のことがちょっと話題になっていた。アジアツアー(本来はそこに日本も含まれていた)を行なったANTHRAXが、本来の来日日程と同じ日に成田空港にいたのである。ただ帰国の際の乗り継ぎの関係で成田で一旦降りて、後続の飛行機を待つ間にターミナルでビールを飲んでいた姿が映されていた。またスコット・イアンのTwitterに「It's what is keeping me from going Godzilla on this place」というツィートが投稿されたこれを観た一部のファンに「こいつら、日本をなめてんのか?」と思われてしまったのである。別に、嫌がらせの為にわざわざ成田で降りたわけでもあるまいし、完全に思い込みによる憤りであるとは思うのだが、本当だったら今頃は…と思えばこその、持って行き場のない怒りがたまたまぶつけられてしまったのだろう。そんな怒りも再来日公演さえ観てしまえば綺麗さっぱり忘れてしまえる程度のものだったはずである。また、その後の米国内ツアーに於いても、スコット・イアンが妻の出産に伴って短期間バンドを離脱し、SEPULTURAのアンドレアスという代役ギタリストを立てて何公演か行なわれたこともあり、ANTHRAX周辺も何かとせわしくなっていた。
 そのうちに新譜「WORSHIP MUSIC」がリリースされたのだが、生憎おれは原発事故に伴う金欠病になり「肝心のライヴに行けなくなったらかなわん」と、アルバムの購入を控えた。このところ、おれはライヴに参戦するにあたり、所謂「予習」をすることをやめていたこともあり、ライヴで新曲が気に入ったらそのときに購入しよう(ただし、懐に余裕があれば)、ということにした。この新譜、すこぶる評判が良いようで、ビルボードで総合12位というチャートアクションを見せ、アメリカのメタル系の大手ニュースサイトの「LOUDWIRE」でも、2011年間最優秀楽曲に於いて、新譜からの「The Devil You Know」が1位に選ばれた。日本のオリコンチャートでも総合では28位だったものの、洋楽チャートでは10位以内に入るなどして、否が応にも振替公演への期待が高まっていったのである。

 11月になり、仕事のスケジュールと懐具合をみたところ、なんとかライヴには行けそうな感じになってきた。サービス業なので金曜・土曜は厳しいが、振替日程が平日の為、これは行けそうだと思った。しかし、性質上、いつ仕事が入るかわからないので、前売を買うのはやめて、当日券での入場を目論んだのである。なにしろ、平日の公演なので前売が売り切れるとは考えにくい。とにかく最近の都会メタラーは気合が入ってない、のではなく、長引く不況のため、大御所クラスの東京公演も滅多に売り切れないことが常となっている。そのようなわけで、すっかりANTHRAXのライヴモードになったおれは、日々の雑務をこなしていた。
 そんなある日、一応前売の状況だけ見ておこうと思い、各プレイガイドのチケットの残り状況を見たところ、なんと東京公演が2公演とも「予定枚数終了」となっていた。そんなバカな……!しかし、新譜の評判も良かったために、ここへ来てセールスが一気に伸びたのだろうか。これは油断をしていた。平日でしかもキャパの大きいO-EAST公演。まさか売り切るとは。でもそれなら、主催者のサイトに「SOLD OUT」と出るだろうに。訝しがっていろいろみていると、なんと大阪や名古屋も予定枚数終了になっていた。このところ東京でもメタルのライヴは苦戦しているのに、大阪や名古屋は輪を掛けて酷い状況である。ド平日に東京×2、名古屋、大阪の4公演がすべて売り切れるとは凄いな、というよりもこれはおかしい。もしや…と思い、ANTHRAX関係の掲示板を覗くと、既に騒ぎは大きくなっており「これはまた中止なのでは?」という趣旨の書き込みで溢れていた。しかし、主催者側の発表は無く、主催者に電話をかけたという方の書き込みでも、「予定枚数を終了しました」という返答しかもらえなかったということである。そして皆やきもきとした気分の内に5日ほどを過ごしたところで、このようなお知らせがイベントのサイトに載ったのである。

ANTHRAX / HELLYEAH 来日公演中止のお知らせ
12月にて予定しておりましたANTHRAX&HELLYEAH公演ですが、ANTHRAXのメンバーの家族が重病のため来日を断念せざるを得なくなってしまったため、誠に申し訳ございませんが公演を中止させていただくこととなりました。お手持ちのチケットにつきましては、すべて払い戻しさせていただきます。詳細はお買い求めのプレイガイドまでお問い合わせください。
お客様ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけしますことをお詫び申し上げます。
2011年11月25日 クリエイティブマン プロダクション
ANTHRAXのエージェントからの声明
“due to a serious health issue with a close family member, Anthrax have to cancel their dates in Japan in December. The band ask for your understanding and promise to reschedule the dates as soon as possible”.
ANTHRAXの近親者の健康上の深刻な問題により、12月の日本の日程を中止せざるを得なくなってしまいました。バンドは皆様のご理解をお願いするとともに、なるべく早く日程を再調整することをお約束致します。


 覚悟をしていたとはいえ、このような結果になってしまい残念である。しかし、おれなどはまだチケットを買っていないし、元々が「まぁ、行けたら行くか」くらいの気分だったので、ダメージはそれほど大きくはない。しかし、熱心なファンからすれば、一度延期になった上に、その振替公演の直前での中止である。そのショックは如何ばかりか、おれなどにはとても推し量れるものではないであろう。掲示板などでは「本当に家族の病気なのか?放射能被曝を恐れているのが本当のところではないのか?」という、なかなか一概に否定しきれない書き込みも多数為されている。確かに、現状では多くの海外アーティストが震災前と変わらないような状況で来日公演を行なっている。エリック・クラプトンやAEROSMITHのような大御所クラスも東京公演を行なっており、まるで放射能問題などはないかのような状況ではある。そんな中でのANTHRAXの来日中止は様々な憶測を呼んでも致し方のないケースなのかも知れない。しかし、メンバーの近親者(ドラマーのチャーリー・ベナンテの母親とのこと)が重病だというのもまるっきり嘘だという確証もないし、日本公演の前に予定されていたインドネシア公演も同時にキャンセルされている。だが、先述のようにスコット・イアンが妻の出産の際には代役を立ててライヴを敢行したこともあり、「だったら、チャーリーの代わりのドラマーを連れてくればいいだろ」という意見もあったが、実はベーシストのダン・スピッツは年齢こそあまり変わらないがチャーリーの甥である。ということは、チャーリーの母はダンの祖母にあたるという、またなんともややこしいことになっているので、下手をするとダンの代役まで必要となってくるのだ。
 しかし、この重病説を疑う方もおり、それを踏まえたうえで、ANTHRAX初期のベーシストであったダン・リルカを引き合いに出してANTHRAXと比較したりもしている。ダンは今月上旬にBRUTAL TRUTHのメンバーとして来日公演を行なった上、殆ど間をおかず、来年の2月下旬には今度はNUCLEAR ASSAULTのメンバーとして来日する予定である。この元メンバーの短期間のうちの複数回来日を引き合いに出し、「ダンに較べて、こいつらは一体……」といった言われ方をされているという訳だ。
 また「グダグダ言ってないで、正直に“放射能は嫌だ”と言えばいいじゃないか」という意見もある。様々な理由があるにせよ、それが根底にあるなら素直に言って欲しいというのはある。おれもこれを以って「ANTHRAXは臆病者だ」などとは言いたくない。原発事故の影響を肌で感じている身としては「放射能汚染を理由に渡航者が来ない事は、風評による被害だ」などとは絶対に言いたくないのである。来日する外タレは多いし、来てくれればそれは嬉しいが、来ないという選択肢があって当然な状況なのもまた事実なのである。最近はなんだかそういう意識が薄れていきつつある気はするが、状況が劇的に良くなったというわけでは決してないのである。
 いずれにせよ、ANTHRAX側エージェントの発表には『なるべく早く日程を再調整することをお約束致します』という文言もあり、また、メンバーもTwitterで「インドネシアと日本はキャンセルではない、延期だ。時期は3~4月ごろか」といった書き込みもされているため、HELLYEAHとのパッケージングはどうなるかわからないが、ANTHRAX側の認識としては「あくまでも延期」というようだ。主催者側からすれば、一旦このパッケージングを打ち切るという形で「中止」としているのだとすれば、矛盾しているわけでもない。再来日公演が実現した場合、この騒動がどの程度集客に影響するかはわからないが、行くにせよ行かぬにせよ、冷静に判断したいものである。代役といっても、2名分の代役を立てるというのは現実的でないし、特にチャーリーの特徴的なドラミングを再現するとなると、かなり人材は限られてくるし、できる限り正規メンバーでの公演を観たいではないか。

 そもそも来日が延期になったのも、振替公演の中止でバンドが囂々に詰られているのも、元はといえば原発事故のせいなのである。原子力発電という手法の賛否はともかく、東京電力福島第一原子力発電所が事故を起こして放射性物質を撒き散らかしたのは厳然たる事実である。そのくせ、事故の加害者の認識はこんなもんだし、本当に東電に対する憎悪は募るばかりである。それにしてもこの判決を出した裁判所が凄すぎる。これなら無責任に何でもやり放題ではないか。もしこの判決を出した判事が将来最高裁判所の判事になったとしたら、選挙の際の国民審査で必ず落としてやりたいものである。

crazytepco.jpg

 いずれにせよ、誰も得することのなかったかのようなこの騒動の中で、ダン・リルカの株が上昇したのは間違いない。ANTHRAXの前売を買ってしまった人の中には、払い戻されたお金でNUCLEAR ASSAULTのチケットを買う人も相当数出てくるのではないだろうか。それにしても、原発騒動の中で株を上げたバンドの名前がNUCLEAR ASSAULT(核攻撃)とは、なんとも世の中は面白く出来ているものである。
 ANTHRAX 「Caught In A Mosh」Live

※「モッシュ」の聖歌。ANTHRAXのライヴでモッシュすることになるのは、果たしていつの日になるのだろうか……

NUCLEAR ASSAULT 「Brainwashed」PV

※目には目を、歯には歯を、核には核を。NUCLEAR ASSAULTは2012年2月に来日予定
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Author:でー
メタルとか他いろいろなことを
法螺や誇張を交えてつらつらと

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